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第25話

あれは忘れもしない・・まだ夏の訪れ(おとず)が間もない1999年7月のこと・・

そう、世間では「ノストラダムスの大予言」が注目を集め、見えざる世界を見据(みす)える者達の意識はソコにありました。当時私は、エスニック雑貨のお店を起業し、東南アジア雑貨全盛期(ぜんせいき)の日本を駆け巡り、インドやタイ、チベットなどから不思議な雑貨を輸入していました。ある日、東京八王子にあった問屋の倉庫の片隅で一風変わった人形を見つけました。世界各国の変わった人形を見てきた私ですが、この人形の雰囲気にヤバさを感じたのです。しかも値段が提示(ていじ)されていないので展示品かと思った私は社長に聞いてみました。すると社長は「いや・・それは・・」と言いかけたので「どうされました?」と聞き返すと「いや、それはね・・何ていうか・・私が現地に行ったとき、そこの部族長に譲ってもらった物で、まぁ、戦利品(せんりひん)なんだよ・・」と言われました。「戦利品とは!?」社長が重い口調で「これはねバミレケ族の物で、部族間(ぶぞくかん)の争いに使用されたリアルな呪いの人形だよ」バミレケ族とは部族数80くらいの集団で構成されるカメルーン中部に住んでいる者達で、ニジェール=コンゴ語派のベヌエ=コンゴ諸語のどれかを話すようです。一夫多妻(いっぷたさい)も特徴で、農業によって、とうもろこし、落花生(らっかせい)などを栽培しているようです。建築や工芸などは男性が担当し、畑は女性が分業して行うのです。正方形の家に円錐形(えんすいけい)屋根の住居が特徴的(とくちょうてき)です。そして何より私が注目したのは・・先祖(せんぞ)崇拝(すうはい)と土着(どちゃく)信仰(しんこう)から生まれる伝統(でんとう)宗教(しゅうきょう)で医術や祈祷(きとう)を行っているということです。占いを祈祷師(きとうし)が中心となり、大勢の呪術師(じゅじゅつし)や魔術師(まじゅつし)も日常茶飯事に呪いを使い心酔(しんすい)しているのです。このような背景があり、この人形は呪術師が相手部族長を呪殺(じゅさつ)するために使用したものだったのです。泥を素焼きし、胸にはガラスで蓋(ふた)がされた小部屋があり、ここに魂を閉じ込め、背中にはカラスの羽が何本も突き刺さり、念を込めて業火(ごうか)に投げ込んだようです。この人形を何とか社長に譲って頂き、お店のディスプレイとして飾っておきました。ある日の午前中、店に訪れた30代前半くらいの男性がその人形を見つめながらポツリと「今月、青木ヶ原樹海で大魔王の降臨(こうりん)儀式(ぎしき)を行うのですが参加しませんか?」と凄いことを言われ、さらに「この人形の謎が解ける」とも言ってきました。連絡先を告げられお香を買って帰って行きました。その連絡先は大手魔術団体のものでした。それがどう繋がってくるのか興味はありましたが、行くことができませんでした。それから数日経ったある日、店の外を掃除していると、リコー通りケンタッキー近くの紳士服店前(今はない)の歩道に、女の子がしゃがみ込んで地面に何かを書いているのを見ました。危ないなと思いながら、周囲に親はいないのか探しましたが見当たりませんでした。ゴミを裏に捨てにいき、先ほどの場所に目を移すと女の子はいなくなっていました。そこにケンタッキー方面から高校生2人組の男子が自転車で走ってきたのですが、次の瞬間、2人が勢いよく転んだのです!!ビックリした私は道路を渡り、2人組に声をかけました。しかし、私は凍りつきました。地面には奇妙な絵が白いチョークのような物で描かれており、その絵はなんと「あの人形の絵」だったのです!その絵に躓(つまず)いたかのように転倒し、1人が頭を打ったようなので私は一応救急車を呼び、隊員に事情は説明しましたが信じてもらえませんでした。リコー通りでは色々な噂(うわさ)を耳にします。南から高尾山に向かう白装束の一団がお経を唱えながらリコー通りを歩いている姿を目撃したとか、首のない大男が大声をあげながら目の前で消えたなど・・。結局あの人形は、お客さんが友達の誕生日プレゼントにどうしても欲しいから売ってくださいということで手放しましたが、風の噂でよくないことが起こったので処分したと聞きました。世の中見えるものだけがすべてではなく、どうしても理解できない現象や状況があるようです。画像をお見せすることができませんが、この人形が引き起こした一連の恐怖現象はなんだったのか?私の見解ですが、人形にこもった怨念が死神を引き寄せたのではないかと思っています。道路に描かれたあの絵がどうなったかって?・・翌日には消えていました。近所の人が消してくれたのかわかりませんが、現世とあの世が交差する不思議な季節、夏の奇妙な出来事として今も鮮明に覚えています。

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